旧富岡製糸場西置繭所

Before: 富岡製糸場西置繭所 → After:旧富岡製糸場西置繭所

1階内部の様子:繭を風乾燥させるために開閉されていた建具は締め切られて合板が貼られている。 /撮影:文化財建造物保存技術協会

1階に挿入したガラスボックスは耐震補強、空調空間の限定、既存建物の鑑賞装置となっている。/撮影:加藤純平 提供:文化財建造物保存技術協会

2階展示スペース。既存の貯繭大缶(繭袋を積み上げる収蔵部屋)の囲いをいかした展示。/撮影:加藤純平 提供:文化財建造物保存技術協会

1階は操業末期の改造で塞がれていたが今回の改修で取り払い、壁内に残っていた建具を現した。/撮影:加藤純平 提供:文化財建造物保存技術協会

国宝である既存建物はできる限り操業時の姿を残すよう修理の範囲や方法を見定めながら、1階内部にはガラスボックスを挿入するなど、大胆な活用と文化財の保存を融合した。

リノベーション概要

BeforeAfter
建築名称 富岡製糸場西置繭所旧富岡製糸場西置繭所
建築用途生産施設 その他 集会施設, 展示施設 展示場
建築概要/
Renovation 概要

製糸の原料となる繭の貯蔵施設として建設された。その後様々な改造を施されながら運用され続けた。蚕糸業の拠点施設の代表的な建造物。

旧富岡製糸場西置繭所は、建設当初の部材、架構、仕様も残す一方で、115年におよぶ操業中の改造による変化の跡も同時に良く留めている貴重な文化財である。これまでの文化財保存ではバラバラの検討となりがちであった、保存と活用、加えて耐震対策を相互に連携して進めることで、新しい文化財保存のかたちを試みた。
西置繭所には、理解の乏しいままに製造し施工された煉瓦や漆喰天井、システムの変更によって壁、床、天井とあらゆるところに加えられた改造の痕跡、作業員が書きこんだメモなど、工場としての稼働を物語る履歴が残されていた。今回の工事では、今後の維持と使用に支障がない部位は、一見して破損しているような箇所でも、できるだけもとの状態を失わないよう、丹念な調査をベースにして修理が行われた。
新たな部分のデザインでは、いかに積み重ねられてきた時間的な経過を含めて来館者が歴史的建造物を体感することができるか、工夫を凝らした。内部に新たに組立てた耐震補強を兼ねるガラスボックスや、鉄骨に取り付けて既存の壁や天井に向けられた照明は、機能や性能の必要を満たすだけでなく、文化財である建物そのものが鑑賞の対象として意識されることを促すための設えとしての役目を持たせた。
補強は、1階では既存の柱を挟むように2本が一対となる細い鉄骨フレームで構成して、無骨な印象をおさえた。2階は炭素繊維ブレースを主体に補強している。1階のガラスボックスは補強にとどまらず、活用のためのスペースを分離し、空調による既存空間の急激な温湿度変化の緩和、空調された空気が漆喰などの仕上げ面に直接吹き付けることによる過乾燥の防止、漆喰が剥れて日常利用の支障となることの防止を狙っている。さらに天井ガラスは、耐震補強の一部も担う。

概要その他

設計者
公益財団法人 文化財建造物保存技術協会
所在地
群馬県富岡市富岡
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改修年
2020年
建築規模
木骨煉瓦造 2階建 延床面積 2,568.24㎡
掲載書誌
新建築2021年3月号
賞・選定
・国宝、・2022年日本建築学会賞(作品・業績)、・日本空間デザイン賞2021金賞(博物館・文化空間)、2021年照明デザイン賞優秀賞
URL
https://www.aij.or.jp/jpn/design/2022/data/2_2award_001.pdf

リノベーションの手法・キーワード 等

文化・産業遺産

用途変更, 挿入, 補強

 

 

 

記録作成者

氏名
齋賀英二郎
所属
元文化財建造物保存技術協会