コラム

column

物質に刻まれた痕跡を継承するデザイン
再利用しようと保管しておいた古い建具から、「7さい ようこ 1966」という文字を発見した。
建て主のご家族が子どもの頃に描いた文字である。身長を測って印を付けていたのだろう。
1966年とあるから、58年前の記録である。この痕跡を見つけた時、建て主の方は大喜びであった。
ごく普通の建具でも、思い出の詰まった建具は本人にとってはかけがえのない宝物だ。 2…
リノベーションで生き延びたパンテオン
そもそも、リノベーションは古くから行われてきた。
よく知られているローマのパンテオンも、その一例である。
パンテオンは、アグリッパによってローマの神殿を祀るため、約2000年前に建てられた。
しかし、ローマの神々が信仰されなくなった600年頃、
キリスト教の聖堂にリノベーションされ、破壊を免れた。
コンクリート造で堅固な構造とと…
「旧根岸競馬場」の保存活用はいかに?
根岸競馬場は1929年に建設され、我が国初の洋式競馬場として知られる。
この歴史的建造物は、建築家J.H.モーガンの設計によって建てられた。
戦後は連合軍に接収され、1982年に他の根岸公園部分と合わせて国へ返還され、
さらに1987年には横浜市の管理下へ移された。 ここに紹介する写真は、競馬場の1等観覧席を北西方向から撮影したものである。
「寄り添う」という形の保存活用:甚吉邸とW-ANNEX
隠れた宝石のように、大きな樹木に隠された建物がひっそりと佇む。
それは、登録有形文化財である旧渡辺甚吉邸に寄り添う、黒子のような存在の多目的スペース、W-ANNEXである。
このスペースは、ツバメアーキテクツと前田建設工業の設計により、
2022年に甚吉邸の隣に建設された。 甚吉邸は、1934年に遠藤健三、山本拙郎、そして彼らの恩師である今和次郎に
変わらぬ価値、変えない努力
ポーラ五反田ビルと聞いて、「ああ、あの建物か」と思い浮かべる人も多いだろう。
五反田駅から渋谷方面のJR山手線に乗っていると、
1階部分の建物裏側の昇り庭まで透けて見える建物である。
1971年竣工のその建物は、竣工当時そのままの姿を保つ。設計は、日建設計の林昌二。
透明感あふれる開放的ロビー空間は、オフィスビルの金字塔として今なお語り継がれ…
旧奈良監獄 試される創造力
2026年春、いよいよ、旧奈良監獄が高級リゾートホテルとして開業する。
1908(明治41年)に作られたレンガ造の建物は、築100年を超えてなお健在だ。
設計は、旧奈良監獄を含む明治5大監獄を設計した山下啓次郎。
2017年に監獄としての役割は終え、建物は重要文化財に指定された。
現在でも美しく重厚なイメージを残すロマネスク様式の赤レンガ建築…
2023年度日本建築学会大会(近畿)にて本アーカイブの紹介
先週行われた建築学会大会(京都)にて、「建築リノベーションアーカーブ.com」を紹介しました。
参加した歴史意匠データベース小委員会のパネルディスカッションは、建築家・増田友也設計による小林邸が会場でした。
近代建築と和風建築の融合を目指した増田友也の住宅は、リビングの飾り棚の背景は金箔張りで、とても写り映えが良く見えました。
会場には、京都に移転したばか…
城壁の掘を機械式駐車場に転用したCesena
約17年も前の話だが、Cesena駅を降りて旧市街に向かって歩いていたら、不思議な光景に出くわした。
広い幹線道路の下から、機械式パレットに乗った車が次々と出てくるではないか!
後で古地図を見たら、その場所が城壁の周りにめぐらされた堀の跡であることがわかった。
中世時代の城壁の堀を活用した、24時間利用可能な地下の機械式駐車場である。 イタリア北東部エミ…
旧四谷第四小学校 現四谷ひろば・東京おもちゃ美術館・CCAAアートプラザ
地域に愛されてきた小学校も児童数の減少により統廃合を迎え、2006年に廃校となりました。
校舎が取り壊されず活用されてきたのには、関係者の努力がありました。
もとPTAや卒業生などが、校舎を活用し実績を作り、行政に働きかけたことが区長にも届きました。
活用するためのプラン作りも地域の方々が行いました。
東京おもちゃ美術館や元美術教師だった先生…
安田侃の問う、時を超える価値観
東京ミッドタウンに設置された彫刻「意心帰」の制作風景
(2005年、Pietrasantaのアトリエにて、奥左手が安田侃氏) 「将来、ゴミにならない作品を目指している。」
安田侃氏のアトリエを訪問した時に、彫刻作品を生み出す時の思いがけない話を聞いた。
抽象的で崇高なイメージの彫刻作品と「ゴミ」という言葉が唐突に感じられたが、
考えてみると…
リノベーションで再生した黄金湯
コンクリートむき出しの壁にかかる白いのれんに、若い男女が次々と吸い込まれる。
昼下がりの東京下町・墨田区「黄金湯」の光景だ。
内部はコンクリートむき出しの壁に囲われ、番台の代わりにDJブース&バーカウンターが出迎える。
エントランス空間からすでに、何やら他の銭湯とはひと味違う気配が漂う。 黄金湯が現在のマンション型銭湯の姿になったのは1985年。
築35年…
美術館をワクチン接種会場とする発想
広いギャラリー空間で、ゆったりと現代絵画を鑑賞しながらワクチンの注射を打つ人たちがいる。
2021年4月、イタリア・トリノ近郊のリヴォリ現代美術館の3階ギャラリーでの光景だ。
リヴォリ現代美術館は、世界で初めてワクチン接種会場を設置した美術館である。
美術館をワクチンの接種会場に転用するという発想は、一体どこから生まれるのか。
非常事態に…