リノベーションで再生した黄金湯

2023.06.14 更新 カテゴリ:コラム

コンクリートむき出しの壁にかかる白いのれんに、若い男女が次々と吸い込まれる。
昼下がりの東京下町・墨田区「黄金湯」の光景だ。
内部はコンクリートむき出しの壁に囲われ、番台の代わりにDJブース&バーカウンターが出迎える。
エントランス空間からすでに、何やら他の銭湯とはひと味違う気配が漂う。

黄金湯が現在のマンション型銭湯の姿になったのは1985年。
築35年経過の老朽化は著しく、40代の若夫婦経営者が2020年に思い切ってリノベーションを行った。
不要になった焚き場をサウナや水風呂に転用し、外には外気浴スペースを増築し付加価値を付けた。
既存のコインランドリーを移転し、玄関にDJブースとバーカウンターを兼ねた番台を設置した。
2階には、ドミトリーを設置し宿泊可能な施設としている。
若手アーティストを起用した大のれんや壁画、サインなども空間演出に一役買っている。

このプロジェクトの成功は、クリエイティブディレクション/高橋理子、
内装設計/長坂常、銭湯絵/ほしよりこ、大のれん/田中偉一郎といった
クリエイターが寄り集まり、それぞれの力を発揮したことにある。
オーナー夫婦の「銭湯を地域のコミュニティ拠点としたい」という思いが、
アイディアの源泉になったことはもちろんである。
黄金湯に人が寄り集まるように、クリエイターの力が結集され、
お客さんの要望や嗜好を、シンプルかつ大胆に形にしている点が魅力形成につながっている。

オーナー夫婦にはさらに、「銭湯業界の熱を地元から沸かしたい」という強い思いがある。
これらのクリエイターたちを誘引する力こそが、この黄金湯の魅力であろう。
この30年で4分の1に激減したという銭湯業界だが、黄金湯の湯船に浸かっていると、
銭湯にもまだ可能性があるのではと考える。
(文・写真:柳沢伸也)