バランザーテの教会(1957,MILANO)

2024.08.07 更新 カテゴリ:コラム

正式名称は「Chiesa Mater Misericordiae a Baranzate」。
この教会は、マンジャロッティが世にその名を知らしめたデビュー作である。
建物は半透明ガラスの白い壁、X字型の断面をした大きなPC梁、
そしてPC版の天井パネルで構成されている。
訪れた際には、午後の柔らかい光が白い壁を通して満ち、
天井から吊り下がったキリスト像が鮮やかに浮かび上がっていた。
その光景は伝統的な教会らしからぬ空間だったが、独特の威厳を感じさせるものだった。 

マンジャロッティの教会は、デザインと建築生産の工業化が見事に統合された
モダニズムの正統派といえる存在である。
モダニズムの原則のひとつである建築生産の工業化は、鉄、コンクリート、ガラスと
いった素材の使用を特徴とし、特にプレキャスト・コンクリート(PC)は近代化の象徴として重視された。

「日本はヨーロッパからモダニズムを輸入する際に、デザインばかりに注目し、
肝心の構法を見逃してきた。A.マンジャロッティの建築を見るべきだ」
という内田祥哉先生の言葉を思い出す。 

しかし、モダニズムへの挑戦には困難も伴った。
2005年の冬に訪れた際には、半透明の白いガラスパネルが大きく劣化しており、
2枚のガラスに挟まれた発泡スチロールも劣化していた。
壁はボロボロになり、教会を掃除していた老婦人は「冬は寒くてしょうがない」と苦笑いしていた。
当時発明されたばかりの発泡スチロールをガラスに挟むというアイデアは、
マンジャロッティが断熱性能を高めるために考え出した挑戦だったのだろう。 

バランザーテ教会は、2012から2015年にかけて、マンジャロッティ自身の監修のもと、
SBG Architetti スタジオによって修復された。
半透明のガラスパネルは3重ガラスと乳白シートを採用して高気密高断熱仕様となり、
もとの印象を損なうことなく復原された。
外壁を構成するスチールサッシは、耐震性を考慮しステンレス鋼で再構築され、
黒ずんだPS版もきれいに洗浄された。
内外装を忠実に復原し、安全性対策をきちんと行い、劣化部分の是正は最小限に抑えられた。
この復原作業は、モダニズム建築の先進的な設計思想に敬意を払いながら、
快適に使い続けるための先駆的なモデルだと思われる。
(文:柳沢伸也、写真:佐久間達也)