建設CO2削減の鍵は「躯体を残す保存活用」

2025.08.12 更新 カテゴリ:コラム

2025年711日、JIA再生部会主催で宇都宮大学・横尾昇剛氏によるセミナーが開催された。
横尾氏は、建設から解体までのライフサイクル全体で排出されるCO₂
いわゆるエンボディッドカーボン(Embodied CO₂)の研究者である。
新築時の環境性能はよく話題になるが、解体や既存活用を含めた視点は稀少であり、
今回の講演は約1年越しの実現となった。

横尾氏によれば、建設CO₂とは部材の製造・輸送・施工・廃棄までに排出される
CO₂の総量であり、一般オフィスでは運用CO₂の約16年分に相当する。
ZEB化建物では運用CO₂が減る一方、建設CO₂の比率が増し、約43年分にも達するという。
今後、建物を長く使うことの重要性がさらに高まることは明らかだ。

特に注目すべきは、部位別排出量の分析である。
躯体と基礎だけで建設CO₂全体の5割以上を占めるため、これらを再利用すれば
50%以上の削減が可能になる。
さらに解体に伴うCO₂(約50kg-CO₂/m²)排出も回避できる。
NYの国連本部の事例では、解体・新築よりも改修のほうが圧倒的に環境負荷が低いこと
が示されている。

建設CO₂削減には、既存建物の活用や長寿命化、そして適正な建物形状が有効である。
コンクリートや鉄など高CO₂素材の新規生産を抑え、長寿命で寿命あたりの排出量を
半減できるだけでなく、社会・経済の変化に対応した用途転用も可能になる。
さらに、リユースやリサイクルを前提とした材料・工法の採用も重要な戦略だ。

今回のセミナーを通じて、新築よりも既存躯体を残す改修・保存活用が、
建設CO₂削減の最有力手段のひとつであり、環境価値の高い選択であることを強く認識した。
耐震性能や法規を満たしつつ、用途転用や設備更新を見据えた計画こそが、
これからの建築実務に求められる。
(文・写真:柳沢伸也)