歴史的建物「白浜ホテル」を使い続けるオーナー

2023.04.09 更新 カテゴリ:コラム

「フランスで古い建物を大切に使い続ける精神を培ったので、築50年のこの建物を自分流にアレンジしながら使ってます」
フランスやアメリカで長い海外経験をしてきたオーナーの鈴木斎(いつき)さんは、1960年代に建てられた建物を自分流にリノベーションしながら大切に使い続けている。
母親が創業したホテルを2017年に継承した。エントランスホールを入ると、アンティークな家具や観葉植物が置かれ、窓からは緑一面の林が見渡せ、街中とは思えない眺望に目を見張る。

沖縄県の名護市にある白浜ホテルは、現存する名護のホテルで一番の老舗である。
ホテル名の「白浜」は、当時、ホテルの裏側に白浜が広がっていたところから命名された。
ホテルはエントランスホールのある本館と宿泊室のみの別館から構成され、淡いクリーム色の外壁に琉球瓦の屋根が載る沖縄らしさとアメリカらしさが混ざった建築だ。

古い建物を改修する時、畳をはがしてフローリングを張り、階段を移動して
バーカウンターとキッチンを設置し、靴のまま食事ができるスペースをつくり出した。
一方で、客室はあえて創業当時の趣を残し、玉砂利タイル張りの浴槽などはそのままにしている。
歴史の詰まった建物空間をできるだけ残しつつ、快適さや機能性は進化させるという手法だ。
足りない費用の一部は、クラウドファンディングで調達したという。
海外で培ったバイタリティが、歴史的な古民家を風情のあるビンテージホテルへと昇華させる。

沖縄には昔から、良いところも悪いところも自分たちのモノにしてしまうチャンプルー(方言:ごちゃ混ぜ)の文化がある。
古き良き沖縄文化を継承し、より快適な空間を提供するという鈴木斎さんはまさに、良い意味でチャンプルーを実践している人といえよう。
「このホテルは地域の宝でもあるので、守るために進化させようと考えました」
彼女の言葉に、 歴史的建物を使い続けるための本質が凝縮されている。
(文・写真:柳沢伸也)