古民家活用のスターバックス 京都二寧坂ヤサカ茶屋店

2023.03.24 更新 カテゴリ:コラム

京都の二寧坂にある古民家を保存活用したスターバックス。
小さな袖看板があるだけで、周囲の街並みにすっかり溶け込み、うっかりすると通り過ぎてしまいそうな外観である。
明治末から大正時代にかけて建てられた建物は、外観はそのままで内装の柱と梁を一部移設しただけでほぼ再利用である。
もともと二寧坂周辺は、重要伝統的建造物群保存地区に指定されているため、外観の変更は許されない。
しかし、あえてこうした規制の強い歴史的建造物を店舗として選択し、保存再生による出店を選択したスターバックスには、京都のこの場所でしか味わえない空間体験を提供しようとする強い意志が感じられる。 

路地に面したエントランスを入ると、京都・東山の「行灯」をイメージして作られたという人造大理石の受付カウンターが、ボーっと光る。
その脇には、「通り庭」を歩くような体験ができる細長い廊下が続く。
急な階段を上がると、2階には畳敷きの座敷、小上がり席と板張りのラウンジの3部屋がある。
座敷では外国人の学生たちが車座で談笑し、小上がり席では赤ちゃんがハイハイしている家族の姿があった。
どちらも、ここ京都二寧坂ヤサカ茶屋店でしか見ることのない光景だろう。 

ラウンジ席に陣取って、丸窓から見える京都の街並みを見て過ごした時間は至福そのものであった。
リノベーションとしては、カフェとしての機能性を確保するために必要最低限の柱と梁の移設を行い、断熱性、居住性を高めるために外部建具を2重化し天井吹き出し空調や輻射熱冷暖房を採用した。
伝統的な建物に少し手を入れつつ大切に使い続けるスターバックス京都二寧坂ヤサカ店は、機能性と建造物の歴史性が融合した設計といえよう。
京都二寧坂でしか味わえない唯一無二の空間がここにある。(文・写真:柳沢伸也)