旧奈良監獄 試される創造力

2023.09.30 更新 カテゴリ:コラム

2026年春、いよいよ、旧奈良監獄が高級リゾートホテルとして開業する。
1908(明治41年)に作られたレンガ造の建物は、築100年を超えてなお健在だ。
設計は、旧奈良監獄を含む明治5大監獄を設計した山下啓次郎。
2017年に監獄としての役割は終え、建物は重要文化財に指定された。
現在でも美しく重厚なイメージを残すロマネスク様式の赤レンガ建築は、
解体するにはあまりにももったいない。用途を変え保存活用の道を目指す。
旧奈良監獄のホテルを運営するのは、星のやリゾート。
157万円の最高級リゾートホテルという位置づけで再生されるという。 

監獄からホテルへとリノベーションするのは我が国初の試みだが、
ヨーロッパではいくつも先例がある。
一見、唐突な用途転用に考えられるが、建築の平面形式から考えると
同じ類型に属する建築プロトタイプだ。
中央に監視所が置かれ放射状に伸びた収容棟は管理の視点から作られた平面形式で、
ホテルや病院などの中央に管理部門が置かれた平面形式状と似ている。
事実、ホテルニューオータニは、3つのウイングに分かれた放射状プランだ。

旧監獄の室を覗くと、一面白い壁の中に、むき出しの便器と洗面器が置かれ、
頭のはるか上の壁に小さな窓がひとつあるのみだ。
窓からは、鉄格子を通して青く晴れ渡った空が見えた。
居室ひとつは、わずか約3畳という。
はたして、この無味乾燥な旧監獄が、どのような空間に変貌を遂げるのか。
たとえ23つ連結したとしても、とても高級リゾートホテルになるとは想像が難しい。

リノベーションは、建築家にとって創造力が試される。
(文・写真:柳沢伸也)