地域で支え合う「聴竹居」

2024.08.05 更新 カテゴリ:コラム

JIA再生部会の京都研修で訪れた聴竹居は、建築家の藤井厚二(18881938)が
大山崎町の約12千坪の土地に建てた自邸である。
彼のわずか49年の生涯において、全力で取り組んだこの住宅は、細部に至るまで工夫が凝らされている。
どの部屋にいても自然の風が心地よく吹き抜け、明るく快適な空間が広がる。
窓から望む風景は、京都郊外にいることを忘れさせるほどの美しさだ。 

「お寺のような存在です」と見学ガイドスタッフが語った言葉が胸に響く。
「地域の人々が支え合い、集まるコミュニティスペースでもあります」と
続けた彼の言葉には、深い愛情と誇りが感じられた。
彼の父親はかつて聴竹居の建具屋として働き、彼自身も幼少期から自然と手伝うようになったという。

地域の人々を中心に組織された「一般社団法人聴竹居倶楽部」は、
日常の維持管理と公開活動を担い、地域に根ざした愛着と誇りが息づいている。
聴竹居は大山崎町の住人にとってまさに「お寺」のような存在であり、
日本の住宅の近代的な様式を世界に発信する場でもある。
このように幸福感に満ちた近現代建造物は他にどれほどあるだろうか。

環境、風景、機能性に配慮されたデザインは、現代の建築家たちに
「日本の住宅とは何か?」という問いを投げかける。
世界的にコルビュジエがもてはやされていた時代において、
独自の理論と実践から我が国の自然環境に適した住宅を探求する姿勢は、今なお新鮮だ。
また、こうした優れた近現代建造物を末永く維持管理し伝えていく仕組みが、この聴竹居にはある。
「百聞は一見にしかず」という諺があるように、聴竹居を真に理解するには実際に訪れることが最良だろう。
(文・写真:柳沢伸也 ※写真掲載については許諾済み)