時間的転用が生む癒やしの空間”坊主カフェ”

2025.05.18 更新 カテゴリ:コラム

池袋・祥雲寺で期間限定オープンしている「ぼうず’n COFFEE」を訪れた。
インスタグラムで事前告知されると、あっという間に予約は埋まる人気ぶり。
完全予約・入れ替え制で運営されている通称「坊主カフェ」と呼ばれるこの取り組みは、
寺院の空きスペースと空き時間を活用したカフェである。

受付を済ませて案内されたのは、広々とした畳敷きの和室。
そこに木製の椅子とテーブルが並び、さらに縁側には一列に座布団が敷かれていた。
どうやら、この縁側がカフェで一番人気の“特等席”らしい。
空いていた最後の一席に迷わず腰を下ろす。

抹茶とクリームあんみつを運んでくれたのは、袈裟姿のお坊さん。
隣の席では、外国からの観光客が英語で質問を投げかけていたが、
それにも流ちょうな英語で応じる姿に驚かされた。
語学力もSNS対応も、さすがは現代のお坊さんだ。

ガラスの引き戸が開け放たれた畳敷きの広間は、まさに庭とひと続きのオープンカフェだ。
頬をなでる風、芽吹き始めたばかりの若葉の眩しさ・・・
まさに都会の中でふっと呼吸を取り戻せるような、静かな時間が流れていく。
喧噪を忘れ、無になれる“瞑想の空間”がそこにあった。

話を聞くと、法要や葬儀などの予定がないときに、広間をカフェとして開放しているという。
いわば「時間的な転用」だ。
都市のお寺の多くが閉ざされがちななか、こうして人に開かれた場として
活用されているのはとてもありがたい。
参拝者ではなくても気軽に足を運べるカフェが、お寺への親近感や、
若い世代との新たな接点を生み出している。

そもそもお寺とは、地域に開かれた“広間”のような存在だったはずだ。
ベンチすら見かけなくなった今の都市空間において、こうした取り組みはとても貴重だ。
「時間的の転用」の取り組みは、歴史的建造物の活用などにも応用可能であろう。
美味しいクリームあんみつを味わいながら、さらなる可能性に思いを馳せた。
(文・写真:柳沢伸也)